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2026.08.19

家族からのクレーム、どこからがカスハラ?介護現場で迷いやすい境界線

介護現場では利用者本人だけでなく、家族とコミュニケーションを取る機会も少なくありません。

「もっと丁寧に対応してほしい」「担当者を変えてほしい」といった要望を受けることもあれば、職員を怒鳴る、何度説明しても同じ要求を繰り返すといったケースもあります。

そこで難しいのが、家族からのクレームとカスタマーハラスメント(カスハラ)の境界線です。

厳しい意見を言われたからといって、すべてをカスハラとして扱うことはできません。ですが、一方で「介護だから仕方がない」「家族も大変だから」と職員が我慢し続けるのも適切とはいえないでしょう。

この記事では、介護現場で迷いやすいケースを具体的に整理していきます。

介護現場のカスハラは「厳しいクレーム」と同じではない

まず前提として押さえておきたいのは、クレームがあること自体でカスハラになるわけではないという点です。

2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法に基づき、事業主にはカスタマーハラスメント対策が義務付けられます。厚生労働省は職場におけるカスハラについて「顧客等の言動」であり「社会通念上許容される範囲を超え」「労働者の就業環境が害される」という3つの要素をすべて満たすものとしています。
福祉施設の利用者なども「顧客等」に含まれます。

介護の場合、利用者の家族からサービス内容について不満が出ること自体は珍しいことではありません。
例えば以下のような申し出は、内容や伝え方に問題がなければ、まずはサービスについての意見や確認として受け止める必要があります。

「今日、入浴できなかった理由を教えてほしい」
「最近、父の服が汚れていることが多いので確認してほしい」

大切なのは「クレームを言われたか」ではなく、”何を要求しているのか、その要求をどのような方法で伝えているのか” を見ることです。

介護のカスハラとの境界線は3つの視点で考える

家族から強い口調で何かを言われたとき、その場ですぐ「これはカスハラだ」と判断するのは簡単ではありません。

そこで、次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。

1. 要求そのものに妥当性があるか

最初に確認したいのは、家族が何を求めているのかです。

介護サービスの説明を求める、事故の経緯を確認する、サービス改善を要望するといった内容には、正当な理由がある場合があります。

一方で、契約で予定されている範囲を大きく超えたサービスを要求したり、対応が不可能な内容を繰り返し求めたりする場合は事情が異なります。

厚生労働省も、理由のない要求やサービス内容と関係のない要求、契約上想定されるサービスを著しく超える要求などを、社会通念上許容される範囲を超える言動の例として挙げています。

2. 要求の伝え方が行き過ぎていないか

内容に一定の理由があったとしても、伝え方まで何でも許されるわけではありません。

例えば「なぜこうなったのか説明してください」と求めることと「こんなこともできないのか」「今江は介護職を辞めろ」などと職員の人格を否定することは別です。

暴行や脅迫、侮辱、暴言、威圧的な言動などは、カスハラを判断するうえで重要なポイントになります。

3. 同じ行為が繰り返されていない

1回の問い合わせだけを見ると問題がなくても、回数や時間によって状況が変わることがあります。

説明が終わっているのにもかかわらず毎日長時間電話をかける、同じ内容の謝罪を繰り返し要求する、複数の職員を次々と呼び出すなどです。

厚生労働省は「継続的、執拗な言動」も、手段や態様が社会通念上許容される範囲を超える例として示しています。

つまり、介護現場のカスハラとの境界線は「要求内容」「伝え方」「継続性」の3点をセットで見ると判断しやすくなります。

これはクレーム?カスハラ?介護現場で迷いやすいケース

ここからは、介護現場で家族からクレームを受けたときに迷いやすいケースを見てみましょう。

「担当職員を変えてほしい」と言われた

担当変更を求められただけで、すぐカスハラになるとは限りません。

「母と職員の相性が合わないようなので相談したい」など、理由を説明したうえで変更を希望しているのであれば、通常の要望として検討する余地があります。

一方、職員への嫌がらせを目的として何度も担当変更を要求したり、変更しなければ危害を加えるなどと脅したりすれば、カスハラとしての対応が必要になる可能性があります。

「契約にないこともやってほしい」と頼まれた

家族がサービス範囲を理解しておらず「これもお願いできますか」と一度尋ねるだけであれば、まず説明することが大切です。

厚生労働省の介護現場向けマニュアルでも、サービスの目的や範囲についての認識不足が、利用者・家族との行き違いや苦情につながる可能性が指摘されています。

しかし、できない理由を説明しているのにもかかわらず「金は払っているのだから何でもやれ」などと契約外のサービスを強要し続ける場合は、単なる要望とは分けて考える必要があります。

介護事故について何度も説明を求められる

転倒やケガなどが起きた場合、家族が不安になり、詳しい経緯や今後の対策を知りたいと考えるのは自然なことです。

説明を求められたという事実だけで、カスハラと判断すべきではありません。

一方、事業所が必要な説明を行った後も、職員を長時間拘束したり、土下座や過度な金銭補償を要求したりすれば、要求方法を含めて判断する必要があります。

「何回質問されたか」だけでなく、事業所側が十分な説明をしたかも振り返ることが重要です。

毎日のように同じ内容の電話がかかってくる

家族から頻繁に電話があるケースも境界線が難しいところです。

利用者の状態が急に変化しているなど、連絡が増える合理的な理由があるかもしれません。
しかし、解決済みの内容について毎日長時間電話を続けたり、特定の職員を指名して繰り返し責めたりすることで通常業務に支障が生じているのであれば、組織として対応を検討したほうがよいでしょう。

「カスハラかどうか」より先に事実を整理する

家族から強いクレームを受けると「これはカスハラなのか」という判断に意識が向きがちです。

しかし、実際の現場では、最初から白黒を決めるより、何が起きたのかを記録することが先です。

たとえば、日時、場所、家族から言われた内容、職員がどのように説明したか、やり取りにかかった時間、同じことが過去にもあったかなどを残します。

そのうえで以下を整理すると、感情だけに左右されにくくなります。

  • 事業所側に説明不足や対応上の問題はなかったか
  • 家族の要求内容に合理的な理由があるか
  • 暴言や威圧的な言動などがなかったか
  • 同様の行為が繰り返されていないか
  • 職員の業務や心身にどのような影響が出ているか

厚生労働省の介護現場向けマニュアルでも、正確な事実確認を行い、要員を分析したうえで、施設・事業所全体でケースに応じた対策を検討することが重要とされています。

家族への対応を職員一人に任せないことも重要

介護現場で特に避けたいのが「あの家族の担当だから」と一人の職員だけに対応を任せ続けることです。

担当職員が困っていても「自分の対応が悪かったのかもしれない」と相談できず、問題が表面化しないことがあります。

厚生労働省は、問題が起きた際には施設・事業所内で共有し、職員だけでなく管理者も一人で抱え込まないことが重要だとしています。
必要に応じて、意思、保険者、地域包括支援センター、法律の専門家、警察などとの連携も想定されています。

また、2026年10月1日からのカスハラ対策義務化では、事業所主に対し、方針の明確化、相談体制の整備、事実確認、被害を受けた職員への配慮、再発防止などの措置が求められます。

「困ったら上司に相談してください」だけではなく、誰に、どの段階で報告し、誰が家族対応を引き継ぐのかまで決めておくことがポイントです。

カスハラだからといってすぐ契約を解除できるとは限らない

もう一つ注意したいのが、カスハラが疑われる家族がいるからといって、介護サービスをすぐ終了できるとは限らないということです。

厚生労働省の介護現場向けマニュアルでは、施設・事業所側から契約を解除する場合には「正当な理由」が必要であり、まずサービスの目的や範囲を十分に説明し、契約解除に至らないための取り組みを行う必要があるとされています。

たとえば、職員側の不適切な言動に家族が腹を立てて暴言を口にしたケースで、話し合いや担当変更などを検討せず、直ちに契約を解除することは適切ではない可能性があります。

職員を守ることと、利用者に必要な介護サービスを確保すること。
その両方を考えながら、個別の事情に応じて判断する必要があります。

まとめ|介護のカスハラとの境界線は「言われた内容」だけで判断しない

介護現場では、利用者の家族からクレームを受けることがあります。
しかし、厳しい意見や改善要求があったからといって、それだけでカスハラになるわけではありません。

判断するときは、要求に理由があるか、伝え方が行き過ぎていないか、執拗に繰り返されていないかという視点で整理するとよいでしょう。

同時に、事業所側の説明不足や認識のズレがトラブルになっていないかを確認することも欠かせません。

大切なのは「家族だから我慢する」「少し強く言われたからカスハラにする」という両極端な対応を避けることです。

事実を記録し、職員一人で抱え込まず、組織として判断する仕組みをつくることが、利用者との関係を守りながら職員が安心して働ける介護現場につながります。