親の介護は、ある日突然始まることがあります。
「まだ元気だから大丈夫」と思っていても、転倒や入院、認知症の進行をきっかけに、急に家族のサポートが必要になるケースは少なくありません。
とはいえ、介護が必要になってから慌てて調べ始めると、介護保険の申請、施設探し、仕事との調整、兄弟姉妹との役割分担など、決めることが一気に押し寄せてきます。
日本では高齢化が進み、令和7年版高齢社会白書では高齢化率が29.3%とされています。
つまり、親の介護は一部の家庭だけの問題ではなく、多くの人にとって身近なテーマになっているのです。
この記事では、親の介護が始まる前に知っておきたいことを制度・お金・家族の話し合い・仕事との両立という視点から整理します。
親の介護は「始まってから考える」と負担が大きくなる

親の介護で大変なのは、身体的なお世話だけではありません。
実際には、病院への付き添い、役所での手続き、介護サービスの調整、お金の管理、兄弟姉妹との連絡など、見えにくい作業が多く発生します。
特に注したいのは、親本人が「まだ大丈夫」と話しているうちに、家族が何も確認しないまま時間が過ぎてしまうことです。
本人の希望、通院先、服薬内容、貯蓄状況、介護に使える制度などを知らないまま介護が始まると、家族は判断に迷いやすくなります。
介護は親の生活を支えるだけでなく、家族の暮らしも大きく支える仕事です。
だからこそ、介護が必要になってからではなく、親が元気なうちに「もしものとき」を話しておくことが大切です。
まず知っておきたいのは介護保険の基本
親の介護を考えるうえで、最初に押さえておきたいのが介護保険です。
介護保険サービスを利用するには、原則として市区町村に要介護・要支援認定の申請を行う必要があります。
申請後は、認定調査や主治医意見書などをもとに審査が行われ、要支援1~2、要介護1~5などの区分が決まります。
ここで大切なのは「介護が必要そうだから、すぐに自由にサービスを使える」というわけではない点です。
訪問介護、デイサービス、福祉用具のレンタル、住宅改修などを利用するには、認定結果やケアプランに沿って進める必要があります。
また、申請は市区町村の窓口で行いますが、地域包括支援センターなどで手続きの相談や代行を行っている場合もあります。
親の住んでいる地域の相談先を事前に調べておくだけでも、いざという時の動き出しがかなり楽になります。
親が元気なうちに確認しておきたい生活情報

介護準備というと施設や費用ばかりを考えがちですが、実際に役立つのは「親の日常情報」です。
たとえば、以下のような情報は早めに把握しておくと安心です。
- かかりつけ医、通院先、診察券の保管場所
- 飲んでいる薬、薬局、お薬手帳の場所
- 持病や過去の手術歴
- 親しい近所の人や親族の連絡先
- 保険証、介護保険証、年金関係の書類
- 銀行口座、公共料金、契約中のサービス
- 本人が望む暮らし方や介護への希望
こうした情報は、親にとってもプライベートな内容です。
そのため、いきなり「通帳はどこ?」「施設に入りたい?」と聞くと、警戒されることがあります。
おすすめは、雑談の中で少しずつ確認することです。
「最近、病院はどこに通っているの?」
「薬って毎日飲んでる?」
「もし入院したら、誰に連絡したらいい?」
このように、日常会話の延長で聞くと、親も話しやすくなります。
介護で揉めやすいのは「誰がやるか」が曖昧なとき
親の介護で家族が揉める原因の一つが、役割分担の曖昧さです。
特に兄弟姉妹がいる場合「近くに住んでいる人が自然と介護を担う」「長男・長女だから中心になる」といった空気で進むことがあります。
しかし、誰か一人に負担が偏ると、不満や疲れが積み重ねやすくなります。
介護は、直接お世話をする人だけが関わるものではありません。
遠方に住んでいても、費用の管理、手続きの調査、施設探し、定期的な電話、通院日の調整など、できることはあります。
大切なのは「介護が始まったら考える」のではなく、事前に家族で話しておくことです。
たとえば、次のような内容を共有しておくとよいでしょう。
- 親に介護が必要になったら誰が最初に動くか
- 緊急連絡は誰にやるか
- 通院や役所手続きは誰が担当するか
- 費用は親の資産から出すのか、家族で補うのか
- 在宅介護を希望するのか、施設も選択肢に入れるのか
この話し合いは、完璧な結論を出す必要はありません。
むしろ家族それぞれの考え方を早めに知っておくことに意味があります。
介護費用は「月額」だけでなく突発費用も考える

介護費用を考えるときは、毎月の利用料だけでなく、突発的に発生する支出にも目を向ける必要があります。
たとえば、介護ベッドや手すり、ポータブルトイレなどの福祉用具、住宅改修、通院の交通費、入院時の身の回り品、施設入居時の初期費用などです。
また、在宅介護の場合でも、家族がすべてを担うと負担が大きくなります。
デイサービスやショートステイ、訪問介護などを組み合わせることで、本人の生活を支えながら家族の休息時間を確保しやすくなります。
介護費用を考える際に大切なのは「できるだけ安く済ませる」ことだけではありません。
家族が無理をしすぎて仕事や健康を崩してしまえば、結果的に負担は大きくなります。
親の年金、預貯金、保険、持ち家の有無などを把握し、どこまで介護に使えるのかを確認しておくことが、現実的な準備になります。
仕事を辞める前に介護休業制度を確認する
親の介護が始まると「仕事を続けられるだろうか」と不安になる人も多いでしょう。
特に、急な入院や認知症の症状が出た場合、目の前の対応に追われて退職を考えてしまうことがあります。
しかし、介護のためにすぐ仕事を辞めるのは慎重に考えたいところです。
一度退職すると収入が減るだけでなく、再就職が難しくなる場合もあります。
厚生労働省は、介護休業制度について特設サイトを設けており、2025年から介護と仕事の両立を支援する制度がさらに充実したと案内しています。
雇用労働者のうち55~59歳では10人に1人以上が介護に直面しているとされ、働きながら介護する人は珍しくありません。
介護休業は、介護そのものを長期間担うためだけの制度ではなく、介護体制を整えるために使う考え方もできます。
ケアマネージャーとの相談、サービスの手配、施設見学、家族会議など、初期対応に時間が必要な場面で活用しやすい制度です。
会社員の場合は、就業規則や社内制度も確認しておきましょう。
介護休暇、時短勤務、在宅勤務、残業免除など、会社によって利用できる仕組みが異なる場合があります。
介護前にやっておきたいのは「親の希望を聞くこと」

介護準備で意外と後回しになりやすいのが、親本人の希望を聞くことです。
家族はつい「安全だから施設がいい」「一人暮らしは危ない」「近くに呼び寄せたほうが安心」と考えがちです。
もちろん安全は大切ですが、親本人にとっては、住み慣れた家、近所の人とのつながり、毎日の習慣が大きな支えになっていることもあります。
そのため、元気なうちに次のようなことを聞いておくとよいでしょう。
- できるだけ自宅で暮らしたいか
- 施設に入ることに抵抗はあるか
- 延命治療や入院についてどう考えるか
- 誰に相談してほしいか
- お金や家のことを誰に任せたいか
重たい話題に感じるかもしれませんが、親の希望を知らないまま家族だけで決めるほうが、後悔につながりやすくなります。
「まだ先のことだけど、いざという時困らないように聞いておきたい」と伝えれば、少しずつ話し合えるかもしれません。
親の介護は「準備しすぎ」くらいでちょうどいい
親の介護は、突然始まることがあります。
だからこそ、介護が必要になってから慌てて調べるのではなく、親が元気なうちに少しずつ準備しておくことが大切です。
介護保険の仕組み、地域包括支援センターの場所。親の通院先や薬、家族の役割分担、介護費用、仕事との両立制度。
これらを事前に確認しておくだけで、いざというときの不安は大きく減らせます。
特に大切なのは、親の介護を「家族がどう支えるか」だけでなく、親本人が「どのように暮らしたいか」を聞いておくことです。
介護は、親の人生の終盤を支えるだけでなく、家族自身の暮らしを守るための準備でもあります。
今すぐ大きな決断をする必要はありません。
まずは親の通院先を聞く、介護保険証の場所を確認する、地域包括支援センターを調べるなど、小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか。