認知症の家族を介護していると「少し目を離した隙に外へ出てしまったらどうしよう」「帰り道が分からなくなって行方不明になったらどうしよう」と不安になることがあります。
特に以前は一人で買い物や散歩に行けていた人ほど、家族も「まだ大丈夫」と思いやすいものです。
しかし、認知症では慣れた道で迷うことや、目的をもって外出しても途中で忘れて帰れなくなることがあります。
国立精神・神経医療研究センターも、認知症の症状として「慣れた道で迷うことがある」「目的をもって外出しても途中で忘れてしまい帰れなくなってしまう」ことを挙げています。
この記事では、認知症の家族が行方不明になるリスクを軽減するために家族でできる見守り、GPSの活用、地域との連携についてわかりやすく解説します。
認知症による行方不明は「特別な家庭だけの問題」ではない

認知症による行方不明というと、かなり症状が進んだ人だけに起こるものだと思われがちです。
しかし実際には、軽度の段階でも「散歩に出たつもりが道に迷う」「昔住んでいた家や職場に向かおうとする」「病院や施設から一人で出てしまう」といったことが起こる場合があります。
警視庁の資料によると、令和7年の行方不明者の原因・動機別では、疾病関係が2万2,753人で最も多く、そのうち認知症は1万7,345人とされています。
行方不明者全体の中でも、認知症は無視できない大きな要因です。
ですが、大切なのは「外に出ないように閉じ込めること」ではありません。
本人の尊厳や生活の自由を守りながら、万が一外出しても早く気づける仕組みを作ることです。
認知症の行方不明対策は本人を制限するものではなく、本人の安全と家族の安心を両立するための備えと考えると取り組みやすくなります。
認知症の家族が行方不明になりやすいタイミング
認知症による行方不明は突然起こるように見えて、実はきっかけがあることも少なくありません。
たとえば夕方になると落ち着かなくなる、家族が別室にいると不安になる、病院やデイサービスの帰りに混乱するなど、時間帯や環境の変化が影響することがあります。
特に注意したいのは、次のような場面です。
- 夕方から夜にかけて落ち着かなくなる
- 「家に帰る」「会社に行く」など昔の生活に戻ろうとする
- 引っ越し、入院、施設利用など環境が変わった直後
- 家族が忙しく、本人が一人になる時間が長い
- 散歩や買い物のルートが以前より曖昧になっている
こうしたサインが見られたら「危ないから外出禁止」と考えるより、外出のパターンを把握することが大切です。
良く向かう場所、歩きやすい道、昔の職場、以前住んでいた地域など家族で整理しておくと、万が一行方不明になったときの捜索にも役立ちます。
GPSは認知症の行方不明対策にどう役立つ?

認知症の行方不明対策として注目されているのがGPSです。
GPS端末や見守りタグを持ってもらうことで、家族がスマートフォンなどから現在地を確認しやすくなります。
警察庁の令和7年資料では、GPS機器等の活用により所在確認・死亡確認がなされた認知症行方不明者139人のうち、118人が受理当日に所在確認されています。
資料ではGPS機器等は迅速・的確な発見活動を展開するうえで有効とされているのです。
ただし、GPSを持たせれば絶対に安心というわけではありません。
充電切れ、電波が入りにくい場所、本人が端末を置いて出てしまうケースもあります。
そのため、GPSは「単独で完璧な対策」ではなく、家族の見守りや地域連携と組み合わせて使うものと考えるのが現実的です。
GPSを選ぶときは、次のポイントを確認しておくと安心です。
- 本人が自然に持てる大きさ・重さか
- 充電の持ちは十分か
- 家族のスマホで位置情報を確認しやすいか
- 通知機能やエリア設定があるか
- 靴、バッグ、杖、服などに取り付けやすいか
- 月額費用や初期費用が負担にならないか
- 自治体の貸与・助成制度が使えるか
GPSは本人にとって違和感が少ない形で持ってもらうことが大切です。
普段使っているバッグに入れる、靴に取り付ける、キーホルダー型にするなど、本人の生活習慣に合わせると続けやすくなります。
自治体のGPS貸与や見守りサービスも確認する
認知症の行方不明対策では民間のGPSサービスだけでなく、自治体の支援制度も確認しておきたいところです。
地域によっては認知症の人を在宅で介護している家族向けに、GPS端末の貸与や利用料の助成を行っている場合があります。
たとえば船橋市では、認知症により外出中に行方不明となった人をGPSで捜索し、早期に家族が発見できるよう位置情報を提供する「認知症見守りGPSサポート事業」を案内しています。
家族が現場に行くことが難しい場合、要請により緊急対処員が現場へ急行する仕組みも紹介されています。
制度の有無や内容は自治体によって異なります。
まずは市区町村の高齢者福祉担当窓口や地域包括支援センターに「認知症の行方不明対策で使えるGPSや見守り制度はありますか」と相談してみるとよいでしょう。
地域連携が行方不明の早期発見につながる

認知症の行方不明対策では、家族だけで抱え込まないことも重要です。
警察庁の資料では、令和7年中に所在確認等がなされた認知症行方不明者1万7,268人のうち、民間通報を端緒に所在確認等された人は8,114人で、47.0%と最も高い割合を占めています。
つまり、地域の人が「いつもと様子が違う」「道に迷っているかもしれない」と気づき、通報や声かけにつながることが、早期発見に大きく関係しているのです。
家族としては近所の人、民生委員、ケアマネジャー、デイサービス、かかりつけ医、地域包括支援センターなどにあらかじめ状況を共有しておくと安心です。
本人の顔写真、よく着る服、よく行く場所、声かけのコツなどを整理しておくと、いざというときに情報共有がスムーズになります。
また、自治体によっては認知症高齢者等の見守りネットワーク、メール配信、防災無線、公式LINEなどを使って、行方不明者情報を地域に共有する仕組みがあります。
家族だけで探すよりも、地域全体で早く気づける体制を作ることが大切です。
家庭で今日からできる認知症の行方不明対策
GPSや地域連携に加えて、家庭内での小さな工夫も行方不明の予防につながります。
まず、本人の生活リズムを整えることです。
昼夜逆転や退屈な時間が増えると、不安や落ち着かなさから外に出ようとすることがあります。
日中に散歩やデイサービスを取り入れ、本人が安心して過ごせる時間を増やすことも対策のひとつです。
次に玄関まわりの工夫です。
靴や上着を見えにくい場所に置く、玄関に鈴やセンサーを付ける、外出時に家族へ通知が届く見守り機器を使うなど、本人を強く制限しない形で気づける仕組みを作るとよいでしょう。
また、本人が持ち歩くものに名前や連絡先を入れておくことも大切です。
ただし、個人情報が見えすぎると不安な場合は、自治体の見守りシールやQRコード付きの登録制度を利用する方法もあります。
服、靴、財布、杖、バッグなど本人が外出時に持ちやすいものに情報を入れておくと、保護されたときの連絡が早くなります。
そして万が一行方不明になった場合は、家族だけで探し続けず、早めに警察へ相談することが重要です。
警察庁の資料でも、認知症行方不明者の早期発見活動の重要性が示されており、令和7年中に所在確認・死亡確認された認知症行方不明者のうち94.8%が受理から3日以内に所在確認されています。
まとめ|認知症の行方不明対策はGPSと地域連携の二段構えで考えよう

認知症の家族が行方不明になるリスクは、どの家庭にも起こり得る問題です。
しかし、事前に備えておくことで発見までの時間を短くし、家族の不安を減らすことはできます。
大切なのは本人をただ見張るのではなく、本人らしい生活を守りながら安全を確保することです。
GPSは認知症による行方不明対策として有効な手段の一つですが、それだけに頼るのではなく、家族の見守り、自治体の支援、地域の協力と組み合わせて使うことが大切です。
「まだ大丈夫」と思っている段階からGPSの検討、地域包括支援センターへの相談、写真や外出ルートの整理を始めておくと、いざとうときに落ち着いて動けます。
認知症の行方不明対策は起きてから慌てるものではなく、日常の中で少しずつ整えておくものです。
家族だけで抱え込まず、GPSや地域連携を上手に活用しながら、本人と家族の安心につながる見守り体制を作っていきましょう。