訪問介護分野で深刻化する人手不足に対し、2025年4月、特定技能および技能実習の在留資格を持つ外国人が訪問介護サービスに従事できるようになりました。
これまで、特定技能「介護」の対象業務は施設介護に限定されており、訪問介護は対象外とされてきた経緯があります。
今回の制度改正は、訪問介護事業所への転職を考えている特定技能外国人と、外国人材の受け入れを検討している訪問介護事業所の双方にとって大きな転換点です。
ただし、従事するためには一定の実務経験や研修修了などの条件が課せられています。
本稿では、訪問介護における外国人材の受け入れ制度について、対象となるサービスの範囲、外国人側・事業所側それぞれの要件、そして実際に受け入れる際の留意点を解説します。
もくじ
訪問介護で外国人が働けるようになった背景

訪問介護は、介護保険サービスのなかでも特に人材確保が困難な分野です。
施設介護と比べて利用者の自宅という閉鎖的な環境で1対1のケアを行うため、コミュニケーション能力や判断力が高い水準で求められます。
こうした特性から、外国人材の訪問介護への従事は長らく認められてきませんでした。ここでは、制度改正に至った背景と経緯を整理します。
訪問介護の人手不足の現状
訪問介護の有効求人倍率は介護分野全体のなかでも突出して高く、厚生労働省のデータでは15倍を超える時期もありました。事
業所の約7割が人材不足を感じているとの調査結果もあり、サービスの維持すら困難な状況に追い込まれている地域が少なくありません。
訪問介護員の平均年齢は上昇を続けており、若い世代の参入が十分でないことが構造的な課題となっています。
利用者の増加に対して担い手が追いつかないという需給のギャップは、今後さらに広がる見通しです。
こうした状況を受けて、外国人材の活用が施設介護だけでなく訪問介護にも広がるべきだとの声が、事業者団体や自治体から繰り返し上がっていました。
2025年4月の制度改正で何が変わったのか
2025年4月21日、特定技能「介護」および技能実習「介護職種」の在留資格を持つ外国人が、訪問介護サービスに従事できるようになりました。
厚生労働省の検討会での議論を経て、一定の条件を満たす場合に限り訪問系サービスへの従事が解禁された形です。
対象となるサービスは、訪問介護のほか、夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護などが含まれます。
施設内でのケアとは異なる訪問系ならではのスキルが求められるため、単なる対象拡大ではなく、追加の条件が設けられています。
この改正は、訪問介護の人材不足を制度面から緩和する狙いがある一方で、利用者の安全確保とサービスの質の維持を両立させることを目指した内容となっています。
外国人が訪問介護に従事するための要件
訪問介護で外国人材が働くためには、特定技能や技能実習の在留資格を保持していることに加えて、いくつかの追加条件を満たす必要があります。
施設介護での経験をベースに、訪問介護特有のスキルを身につけた人材に限定するという考え方です。ここでは、外国人材に求められる具体的な要件を解説します。
介護施設での実務経験
訪問介護に従事するための最も基本的な条件は、日本国内の介護事業所・施設での実務経験が1年以上あることです。
施設介護で基礎的な介護技術やコミュニケーション能力を身につけたうえで、訪問介護に移行するという段階的なアプローチが採用されています。
この実務経験は、特定技能「介護」の在留資格で就労した期間のほか、技能実習「介護職種」での実習期間も算入されます。
つまり、技能実習を経て特定技能に移行した外国人であっても、通算して1年以上の経験があれば条件を満たすことになります。
経験年数の要件は、利用者と1対1で向き合う訪問介護の現場で安全にサービスを提供するための最低限の基準として設定されています。
介護職員初任者研修の修了
実務経験に加えて、介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)の修了も必須条件です。
この研修は介護の基礎知識と技術を体系的に学ぶもので、訪問介護員として業務に就くための基本資格に位置づけられています。
初任者研修のカリキュラムは130時間で、介護の理念や基本技術、認知症の理解、コミュニケーション技術などを学びます。
特定技能の評価試験では介護の基礎的な知識が問われますが、初任者研修はさらに実技を含む実践的な内容であり、訪問介護の現場に即したスキルの習得を目的としています。
研修は都道府県が指定する研修機関で受講でき、外国語対応の研修を実施している機関もあります。受入れ事業所が研修費用を支援するケースも見られます。
日本語によるコミュニケーション能力
訪問介護は、利用者の自宅で1対1のケアを提供するサービスです。
施設介護では他のスタッフに助けを求められますが、訪問先では原則として自分一人で判断し対応しなければなりません。
そのため、日本語で利用者やその家族と適切にコミュニケーションが取れる能力が強く求められます。
制度上の明確な日本語レベルの基準としては、特定技能の取得時にN4相当以上が求められていますが、訪問介護の現場ではそれ以上の日本語力が実質的に必要です。
利用者の訴えを正確に理解し、体調の変化を的確に報告できるレベルのコミュニケーション能力が求められます。
日本語力の向上は、外国人材自身のキャリア形成においても重要な要素です。
日本語能力が高まることで、介護福祉士の国家資格取得への道が開け、長期的な日本での就労にもつながります。
受入れ事業所に求められる体制と責務

訪問介護で外国人材を受け入れる事業所には、通常の雇用管理に加えて、訪問系サービス特有の研修や支援体制の整備が義務づけられています。
外国人材が安心して働き、利用者にも安全なサービスを届けるためには、事業所側の準備が欠かせません。ここでは、受入れ事業所に求められる具体的な体制と責務を整理します。
訪問介護に関する追加研修の実施
受入れ事業所は、外国人材に対して訪問介護の基本事項に関する研修を実施する義務があります。
研修の内容には、訪問介護の業務手順、利用者とのコミュニケーションの取り方、日本の生活様式や住環境への理解、緊急時の対応手順などが含まれます。
施設介護の経験がある外国人材であっても、訪問介護は業務環境が大きく異なります。
利用者の自宅という個人の生活空間に入ること、1対1での対応が基本であること、移動を伴うことなど、施設とは異なるスキルと心構えが必要です。研修はこうしたギャップを埋める役割を果たします。
同行支援の期間設定
外国人材が訪問介護の業務を開始する際には、一定期間の同行支援を行うことが求められています。
経験豊富な日本人スタッフが外国人材に同行し、実際の訪問先で業務の流れや利用者との接し方を指導する仕組みです。
同行支援の期間は事業所が個々の外国人材の習熟度に応じて設定しますが、利用者の安全を確保するために十分な期間を確保することが重要です。
同行支援は外国人材の不安を軽減するだけでなく、利用者やその家族が外国人スタッフに慣れるための期間としても機能します。
ハラスメント防止と相談体制の整備
訪問介護の現場では、利用者やその家族からハラスメントを受けるリスクが施設勤務に比べて高いとされています。
外国人材の場合、言語や文化の壁がこの問題を一層深刻にする可能性があります。
受入れ事業所は、ハラスメント防止のための対応マニュアルを作成し、外国人材が安心して相談できる窓口を設置することが求められています。
問題が発生した際に一人で抱え込まずにすむ体制を整えることは、外国人材の定着率向上に直結します。
また、キャリアパスの構築に向けた計画を作成し、外国人材が将来の目標を持って働ける環境を提供することも事業所の責務に含まれています。
訪問介護事業所が外国人材を受け入れる際の実務ポイント

外国人材の受け入れは制度の理解だけでなく、日々の業務のなかで円滑に運用するための工夫も必要です。
利用者の理解を得ること、外国人材の生活面のサポート、そしてチーム全体の連携体制の構築が求められます。ここでは、実務上のポイントをまとめます。
利用者・家族への事前説明と理解促進
訪問介護は利用者のプライベートな空間で行うサービスであるため、外国人材の訪問に対して不安を感じる利用者や家族がいることは想定しておく必要があります。
事前に丁寧な説明を行い、外国人スタッフの経歴や研修の内容、コミュニケーション能力について具体的に伝えることが信頼構築の第一歩です。
初回の訪問時には日本人スタッフが同行することで、利用者の安心感を高める効果があります。
外国人材の介護技術や人柄を実際に見てもらう機会を設けることで、段階的に信頼関係を築いていくことが可能です。
多言語マニュアルとICTツールの活用
訪問介護の現場では、口頭での指示だけでなく、マニュアルや記録帳、緊急連絡先の一覧など、文字情報の理解も求められます。
外国人材が正確に業務を遂行するためには、多言語対応のマニュアルや翻訳ツールの導入が効果的です。
ICTを活用したケア記録システムや、音声翻訳アプリの利用も実務的な解決策となります。
テクノロジーの力を借りることで、言語の壁を最小限に抑えながら質の高いケアを提供できます。
定着支援と長期的なキャリア形成
外国人材が訪問介護の現場で長く活躍するためには、業務面だけでなく生活面での支援も欠かせません。
住居の確保、行政手続きのサポート、日本語学習の機会の提供など、生活基盤の安定が仕事への集中力と定着率を左右します。
特定技能「介護」で来日した外国人材にとって、将来的に介護福祉士の国家資格を取得することは在留資格の安定化にもつながる重要な目標です。
資格取得に向けた学習支援や、キャリアアップの道筋を明確に示すことは、外国人材のモチベーション維持に大きく寄与します。
訪問介護で外国人材を受け入れる未来に向けて
2025年4月の制度改正により、特定技能や技能実習の外国人材が訪問介護に従事できるようになりました。
1年以上の施設介護経験、介護職員初任者研修の修了、日本語でのコミュニケーション能力が主な条件です。
受入れ事業所には、追加研修の実施や同行支援、ハラスメント防止対策といった体制の整備が求められています。
訪問介護特有の課題はあるものの、適切な準備と支援体制を整えることで、外国人材は確かな戦力となり得ます。
人手不足に悩む訪問介護事業所にとって、外国人材の受け入れは現場を支える新たな選択肢です。
制度の詳細を正しく理解し、受け入れに向けた準備を着実に進めていくことが、これからの訪問介護事業の安定運営につながるでしょう。
外国人材の受け入れに関心がある方は、厚生労働省の「外国人介護人材の受入れについて」のページや、出入国在留管理庁の特定技能制度に関する情報を確認したうえで、登録支援機関や都道府県の介護人材支援窓口への相談をおすすめします